戦時機帆船運航の実態

機帆船綾洋丸回航記録
　　　　　　　　　　　　　　　 　　　　　　　　　　　　　　　　　正岡勝直提供

昭和１８年８月１７日
海務部企画課長殿

機帆船ボルネオ回航談聴取ノ事
　右ニ関シ昨１６日、日鐡ボルネオ事務局理事織田氏ノ好意ニヨリ日鐡第１回（機帆
船綾洋丸）ボルネオ回航宰領岩下氏ヲ主賓ニ新富町若葉ニ於テ晩餐ヲ共ニシナガラ同
氏今回ノ回航談ヲ聴取仕候間左ニ該要旨ヲ報告申上候
　（１） 回航設備
　（２） 回航航路、総回航距離、航海、碇泊日数、平均時速
　（３） 回航時間
　（４） 回航人員
　（５） 食料、飲料水
　（６） 燃料油並ニ潤滑油
　（７） 帆走ニ就而

（１）回航設備
　　 日鐡第１回ボルネオ回航ニ使用セシ機帆船ハ船齢２年ノモノヲ昭和１７年１８
　 萬圓ニテ購入（総屯数１５０屯、機関公稱馬力１２０、油槽容量１０瓲、水槽容
　 量３瓲、瀬戸内海用構造ニテ外洋向キナラズ、瀬戸内海ニテ満船時速６浬、燃料
　 消費量０.８瓲）回航ノ為８萬圓ヲ投ジ設備ヲナス、回航設備ノ主ナルモノ左ノ
　 如シ
　（イ）油槽６瓲ノモノ２槽新設、依而従前ノ油槽ト共ニ油槽容量２２瓲
　（ロ）飲料水槽、従前ノ３瓲木製水槽ヲ撤去シ６瓲鐡製水槽２槽ヲ新設ス、依而
　　　飲料水槽１２瓲
　（ハ）５０キロワット無線電信ヲ新設
　（ニ）「オート、フリーザー」ヲ新設並ニ５尺５寸立方ノ冷蔵庫１個新設、右冷
　　　蔵庫ハ「オート、フリーザー」ニ依リ自動的ニ冷却サレ、規定庫内温度ヲ保
　　　持ス、尚右ノ外４萬圓ヲ投ジ「セキスタント」「クロノミーター」機関部分
　　　品、消耗品２ヵ年分ヲ購入ス
（２）回航航路
　　　大阪―坂出（金毘羅参リノ為）―木江―八幡―牛深―山川―那覇―宮古―花
　　連港―高雄―マニラ―バリックパパン
　　　航海、碇泊日数（大阪発バリックパパン到着迄）
　　　　航海日数　　　２５日
　　　　碇泊日数　　　６０日　　計　８５日
　　　　総航走距離　　３,４４２浬
　　　　総平均時速　　５.６８浬
（３）回航時間
　　　本船ハ修理ノ都合上不得巳回航最悪時期１２月ヨリ翌年２月ニ亙リ回航ヲ決
　　行、従而途中危険ナ目ニ遭遇セル由ナリ、１１月末迄ニ「マニラ」ニ到達スレ
　　バ絶対安全トノ事ナリ
（４）回航人員
　　　　宰領　　　　　　　　　　　　　　１人
　　　　甲板部員（船長ヲ含ム）　　　　　５人
　　　　機関部員（機長ヲ含ム）　　　　　４人
　　　　無線技手　　　　　　　　　　　　１人
　　　　賄夫　　　　　　　　　　　　　　１人　　　計１２人
（５）食料及飲料水
　　　米、味噌、醤油等主食料ハ大阪ニ於テ海軍軍需部ヨリ３ヶ月ノ補給ヲ受ク、
　　飲料水、野菜等ハ各寄港地ニテ自由ニ補給可能ノ由
（６）燃料並ニ潤滑油
　　　大阪―バリックパパン航程２,５００浬ノ計算デ海軍ヨリ左ノ補給ヲ受ク
　　　　重油　　　　２１瓲
　　　　マシン油　１００罐（１,８００立）
　　　尚日鐡並ニ関係者ハ右数量ニ不安ヲ感ジ八幡港ニ於テ
　　　　重油　　　　　３瓲
　　　　マシン油　　５０罐（９００立）
　　ノ追加補給ヲナス
　　　海軍ノ査定航程２,５００浬ナルモ時化ノ為迂回、反航等ノ為実際航程３,４
　　４２浬トナリ重油２１瓲、マシン油１,８４０立ヲ消費ス、依而シテ八幡港ニ於
　　テ追加補給セズ、海軍ヨリノ支給油ノミニテハ目的地マデノ回航出来ザリシ譯
　　ナリ
（７）帆走ニ就而
　　　本船ノ機関餘リ芳シカラズ八幡港ニテ機関ノ大修理、心出シ施行の上出帆ス、
　　本機関ノ規定回轉数２９０毎分ナルモ２７０回轉数ニテ航海セルモ帆ヲ利用セ
　　ル場合ハ楽ニ２９０回轉数ヲ出シ得、船速ヲ早メルト仝時ニ安定性ヲ増シ且ツ
　　機関ノ荷重ヲ軽減スルコトヲ得好結果ヲ得タリト
　　　仝夜仄聞スル所ニ依レバ次回ボルネオ回航ニ就而ハ３０隻許リ船團ヲ組ミ１
　　千屯級海上「トラック」２隻許リ護衛スルモノノ如シ、尚「バリックパパン」
　　ニハ船体機関ノ修理工場アル由ニテ機関ノ小部分ノ加工、工作ハ可能ナルモ鋳
　　物ハ出来ザルモノノ如シ、「バンゼルマシン」ニハ船体工架修理ノ設備アル由
　　ナリ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　以　上

　　　　　　　　　　　　（戦没船を記録する会会報第１７号(1997年発行)より）